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ナルシスの孤独


 ギリシャの神話のナルシスは、彫像よりも完璧な美を持つ少年でした。彼は自分の美しさをよく知っていました。いつも妖精(ニンフ)たちに取り巻かれ、彼が微笑み一つ送るだけで、彼女たちは騒ぐのです。
 知的でかわいいけれど少し垢抜けない無垢な妖精エコーに、彼はちょっと関心を示しました。そして,自信の笑顔でエコーの心を鷲づかみにするのですが、そうなってみると、少しでも傍にいたいと近づいてくるエコーが、何やら煩わしく、疎ましくなります。
「わたしにさわるな。お前ごときと噂になると、不名誉なんだ。」
 嘲笑を浮かべて言い放ちます。その一言がエコーの命を奪います。そして、後には、断ち切れぬ未練のように、声だけが残ったのです。
 これを愁いた運命の女神は、ナルシスに罰を与えます。自分しか愛せなくなるという罰を。

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ナルシスはエコーに与えた仕打ちを悔いてはいません。なれなれしく近づきすぎたエコーが、当然受ける制裁だったと考えています。エコー一人がいなくなっても、彼の周りには賛美してくれる妖精たちが大勢いるので、何も不自由はないのです。他のニンフたちに愛され、充たされていることで、満足です。
  周囲からの愛と賛美を受け取ることで一層輝くナルシスですが、彼は求めるばかりで、与えることを知りません。他者を認めたり、受け入れることが出来ません。
 彼が美しいので、彼の周りには、多くの妖精たちが集まり、誉めそやします。
 しかし、当然のように褒めことばに満悦し、自分の魅力に酔いしれるだけで、こちらを全く認めてくれないナルシスと長く付き合うと、だんだん嫌になってくるものです。
 自分の能力や魅力に自信のある妖精たちは、ナルシスと長くつきあうと、うんざりしてきます。最初はすばらしい容貌に惹かれて寄ってくるのですが、人となりを知るに連れ、ルックスは確かに官能的だけれど、人格としては好きになれそうも無いという葛藤を抱き始めます。
 ナルシスは他者からの持続的な好意を受けることが難しいので、さらに自分だけは自分を認めようとします。エコーの敗北によってチャンスを得たニンフが、彼のエコーに対する残酷な仕打ちを誉めそやしたように、人気者のナルシスを庇う存在が必ず傍にいるので、彼は生き方を改める機会も得られません。
今度はその人々の好意を得るために、自分の魅力に磨きをかけようとします。  ですが、『時』はナルシスには過酷です。美しい容貌や若さゆえの能力は、時とともに失われていくものです。それに変わる賛美の材料、社会的ステイタス、財力などの獲得、維持に向けて、懸命に働くこととなります。美しい人、立派な人、そうしたことばで誉めそやされ、ちやほやされ、尊敬を集めることが幸せだと、ナルシスは考えているのです。
 すると、そうした自己イメージ、社会的な仮面に縛られます。
 ナルシスはまだ知りません。いかに賛美や尊敬の眼差しを集めても、心の中に愛が無ければ孤独だということを。
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