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PTSDと眼窩前頭皮質

 眼窩前頭皮質は、感情の制御の他に、特に激しい苦痛や恐怖をもたらした記憶を消してゆく働きもします。目から額の奥に位置するこの部位に機能低下があると、ある日ある時の苦痛や恐怖に満ちた情景が、いつまでも昨日のことのような鮮烈な映像として、記憶に留まり続けます。
 その結果、苦痛をもたらした他者や場所、状況に対する恐怖心や憤りが長く続きます。それほど恐れる必要はないと冷静な判断を下せていても、その人、その場所に近づけなくなることもあるでしょう。
 どれほど辛いことも嫌なことも、人は歳月の中で自然に忘れ去っていくことで、立ち直っていかれるものです。この忘却装置が働かなくなると、壊れたレコードのように、繰り返し繰り返し、記憶の中でその出来事を再演してしまいます。記憶は思い出すほどに強く刻印されますから、ますますその記憶に縛られます。時の流れが止まってしまうのです。

 自動的に繰り返される記憶の反芻、また同等の被害を受けるのではないかといった不安も当事者を苦しめます。蛇恐怖症の人は、小さな無害の蛇でも、その姿を見ただけでパニック反応を起こします。理性の合理的判断に従えません。一定の個人から暴力を受けたような場合にも、その人物の姿を遠目に見ただけで、あるいは声を聞いただけで、恐怖のスイッチが入ります。命を取られるほど危険な相手ではないと解っていても、情動的解釈では、相手は太刀打ちできない危険な大蛇に他ならないのです。恐怖の暴走が、合理的判断で食い止められなくなっています。

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頻繁に再来する苦痛をもたらした出来事の記憶に悩まされ、それをもたらした人物の影におびえ、その人物が傍にいない状態でも、日常生活がままならないほど、日々は苦痛に満ちたものになります。この苦痛に満ちた状態を癒すために、脳は快楽を求めます。何らかの喜びを投入しなければ、あまりに苦痛に満ちた状況だからです。
 依存症の背景に、こうした恐怖症がある場合もあります。一時忘れさせてくれる物質や、この状況から救ってくれるかもしれない人間関係への渇望が生まれます。大きく絶望へと傾いた振り子は、逆の方向へ大きく振り直す必要があるのです。ですが、依存は多くの場合、満足な報酬をもたらしません。
 恋に落ちて、四六時中相手のことを考え、過去の恐ろしい残像を思い出す暇もなくなったとしても、その恋に破たんすると、今度はその恋の破たんが忌まわしい記憶として、長く付きまとうことになります。

 強いストレスは眼窩前頭皮質の機能不全をもたらしますが、やがては回復していきます。回復を促進させるために、運動やバランスの取れた食事を心掛けたり、また、額を冷やすことも有効だといわれています。そして、何よりも、どうにもならない出来事はどうにもならないままに、順調な他の部分に目を向けることも大切でしょう。なぜなら、不快な出来事があると、往々にして人は、その事ばかりが気にかかり、他の順調な事柄は、当然のこととして忘れがちだからです。
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